何駅か停まるたびに、登山の姿ではない人達が降りる。そりゃそうだ。電車の終点の立山駅までにも、うちの田舎より立派な街が沢山ある。
そこまで通勤通学で通ってる人達がいててもおかしくない。遠くから夜行バスに乗ってわざわざ山に登りに行く私達をきっとモノ好きだなあと思っているに違いない。しかし、まだ登山の風貌以外の人もいる。この人達はまた別の目的があるのだ。
前回↓
渓谷を通って次第に立派な山の中に入って行く。あと一駅という状況。「思えば遠くに来たものだ」と思ってしまう瞬間である。いかにも登山鉄道、という感じの橋を越える。電車の終点は、「立山駅」という名前だがまだまだ全然あの立山ではない立山市というだけだ。麓も麓だ。
そこからさらにケーブルカー、そしてバスに乗らなければならない。富山駅からここまで40分くらい電車に乗ったが、あと1時間はこれらに乗らないと着かない。私達が目指す「室堂」は富山と長野を結ぶ立山黒部アルペンルートの中間に位置し、その先は立山の山の中をトンネルをくぐって、反対側に出る。圧巻のトンネル工事である。そこをトロリーバスで抜ける。 そこからさらにロープウェイで山を下り、ケーブルカーに乗り換えると、そこにあの黒部ダムが鎮座している。
そこから黒部ダムを抜けてトロリーバスで赤沢岳の中を突っ切ると、長野県の扇沢に着く。そしてバスで長野駅に出れるのだ。なんとも山岳交通満載のアグレッシブなルートである。たまらん人も多いだろう。タモさんは間違いなく好きだろう。登山客ではない格好の人達はこのルートで、室堂を散策して、黒部ダムに行くのだ。
そうゆう事ができるカジュアルテイストを含んだ秘境なのである。その目的でこの交通網はひかれたのではない。そうあの黒部ダムを作るために山をぶち抜いたのである。大した国である。
と、いうわけで、ひとまず立山駅に着いた。しっかりと車内で朝ごはんを終えれた私達は意気揚々と乗り換えた。それも悠然と。周りのアナウンスでは、「ケーブルカーは2時間待ちです」と聞こえるのだが、私達には関係ない。そう、出発時に予約済みのケーブルカーに待たずに乗れるのである。素晴らしい。待たずに乗れるのは、宮島フェリーだけだと思っていた。
2時間待ちの大行列とは別の列に並ぶ。そこかしこのベンチでは、もう並んでさえいない諦めの人達も多い。黒部アルペングループの交通機関を使うと、こんなに融通がきくのか。マイカー派にはここが難点である。そう、ここまではマイカーが入れる。その先は、一般車は入れないのだ。
ほとんど待っている時間もなく、すんなりとケーブルカーに乗り換える。ものすごい手さばきでチケットのバーコードを読み取る駅員、この職人技は餃子の王将の餃子作りの手さばきに似ている。餃子一日3万個、チケット一日5万枚。食は王将にあり、である。
そして、通路を抜けて、ケーブルカーのホームでケーブルカーを待つ。ケーブルカーとは、井戸のつるべのような仕組みでまさにケーブルで繋がっている電車である。電車というか、箱である。おそらく電車自体に動力はない。上の滑車の部分に強力なモーターがあるのだ。そこを回して上に引っ張りあげるついでに、下にも下ろすというサイコーのセンスの乗り物である。ケーブルカーを閃いた最初の人は、その夜、眠れなかったであろう。
その発明の塊、ケーブルカーに乗る。登山日記であるはずなのに、また全然スタート地点に着いていないではないか、と思われるだろう。申し訳ない。もうすぐである。
満員すし詰めのケーブルカーが30度の傾斜角で一気に坂を登る。このスピードで歩けたらどんな山でも登れるだろうと考えているまもなく、約7分で上の駅に着いた。そう、ケーブルカーはそんなに長くないのでした。
上の駅に着くと、次はバスである。時刻表では出発まで20分くらい時間はあるので、ゆっくりできるかと思いきや、臨時バスがすぐに出発するとのアナウンス。ケーブルカー2便に対してバス1台というペースが通常なのだろうか、満員のケーブルカーに対して2倍のバスで運んでいるのであろう。
さすが、オープンしたてのこの7月時期、客足は多い。そんなことはつゆ知らず、トイレから帰ってきたパートナーは、「おー、ラッキーだね」と満足げである。この便にトイレ待ちで、間に合わなかった時のことを心配した私の動揺を返してください。
荷物をバスの下に入れてもらってバスに乗り込む。あと1時間寝れる。あと1時間で山登りが始まるのだ。しっかり休もう。
と思いきや、日本一の滝、称名滝、右に見えるは名峰薬師岳、そして広がる湿地帯、と寝させてはくれない名所に嬉しい悲鳴である。
左に大日岳がそびえている。何度も何度もつづら折りを通る。次第に立派な立山山麓が見えてくる。あれに登るのだ。ワクワクが止まらない。
天気も快晴である。これからいくらでも良い景色が見えるというのに、乗客は夢中でカメラのシャッターをきっている。そういう私も。
こういうことで旅行の、行きの写真は多めになる。次第にどんどん景色が良くなるからどんどん上書きされていくのだ。しかし、帰りといえば、もう見た絶景よりも、当然陳腐に見えてしまうので、一気に写真が減る。こういった経験は皆、あるだろう。今、皆それをしている。私も。ちらっと剱岳もみえた。いやっほう。
と、ブツクサ言ってる間に、着いた。着きましたよ。室堂ターミナル。ここが終点であり、始点でもある。バスを降りる。
「おー、涼しいねー」
「涼しいーー!」
来た甲斐があった。灼熱地獄の日本列島において、気温15度の天国である。
荷物を背負って、いざ出発。
と、素直にいかないのだった。
そう、私は昨日の仕事から着替えては来たものの、ベースレイヤーなどはまだきておらず、ここでもう一度しっかりレイヤリングし直しである。街での着こなしは苦手だが、レイヤリングは、大好きである。そんな雑誌が特集であったような、なかったような。
着替えを済ませ、外に出ると、待っていたのは大絶景の立山山麓である。
ここを登るのだ。来てよかった。
続く↓