彼らと初めて出会ったのは、今年のゴールデンウィークの穂高だった。
その時、私達は上高地から涸沢へ行き、一泊し、次の日の早朝、雪山を登って穂高岳山荘に着いた。まだ午前中であるが急登を登り終え、お腹がペコリンコであった。
アイゼンを外し、山荘に入る。暖かい。外とは全然違う居心地に心休まった。次は胃袋を落ち着かせる番だ。
もちろんカレーライスを食べたい。山といえばカレーライスというのは地球のみならず、宇宙のあらゆる惑星でもきっとそうだろう。これほどマッチする食べ物はない。
と、メニューが書いてある壁を見るとカレーの他に「GW限定、担々麺」と書いてある。
「限定だって!!ここに来るのも滅多にない事だし、さらに期間限定とならば、この機会を逃すと、もう二度と食べれないね」
「確かに!どっちする?担々麺?カレー?」
「そりゃ、両方でしょー!」
「おーー!素晴らしい」
とどっちがどっちを言った方が細かいことはさておき、私達は両方注文する事となった。
テーブルは大テーブルで向かいに1組の男女が座っていた。どうやら私達のアホなやり取りを聞いていたらしく
「よし、限定担々麺、見てから決めよう」
「(笑)」
なんと、私達の出される担々麺を見てから注文するという荒技を提案していたのだ。すごい。
「きっと美味しいですよー」
と、私は聞こえてましたよ感を絶妙な間合いで出し、彼らと会話を始めた。彼らもさっき涸沢からここまで来たようだ。
しばらくすると、例の担々麺がやって来た。
文句なしで美味しそうである。
これが3000メートルのキッチンのやる技なのかというほどである。
と向かいの彼が
「決めた、食べよう」
と、そのビジュアルですでに彼らの担々麺の注文は決まった。食は見た目も大切だなと思いました。
担々麺は本当に美味かった。カレーももちろん美味かった。
食事を楽しんだ後、そのままチェックインをした。部屋は2組が相部屋というシステムである。まあ、疲れて寝てしまうから誰が来ても構わないし、そう思われたい。
また出発の準備にとりかかる。そう、今回は奥穂高に登る。周りの人達に色々アンケートした結果、今年の今日は状況も良く、皆無事に登頂できるだろうとのこと。ワクワクが止まらないが、ドキドキも止まらない。
詳しくは別途日記にて記しているので参考にしてもらいたい。
で、その奥穂高岳山頂にて、またまた先ほどの担々麺コンビに出くわした。そうか、目的地を聞いていなかった。というか殆どの人はここに登るだろう。パートナーは涸沢岳に登ったが。
久しぶりではない再開に喜びを感じる。孤高の場所というのは、1時間前に出会ったばかりの人でさえ恋しい。彼らは2人で登っていた。パートナーの女性もタフである。
山頂で写真を撮り合う。そう、あの有名な「ジャンダルムに行ってきた風の私」の写真は、担々麺の彼が撮ってくれたのだ。もう感謝しかない。
天候の影響も考え、先に降りる。降りるときに、わたしは山荘に泊まりますと伝えると
「そうですよね?僕らと同じ部屋ですよ、笑笑」
と担々麺の彼は言った。マジすか。どこまでも出会いますね。と次の再会を約束して、先に降りた。
その後は仲良く山荘で団欒し、半生を語り合い、半生を笑いあった。晩御飯もいっしょに食べ、いびきもかきあい、朝を迎えた。
日の出を拝み、朝食をすませると、では、また後で、とお互い挨拶する。
また後で、そう、下の涸沢でテントを張っているのも同じなのだ、そして、次の日、さらに下の徳沢に一泊するスケジュールまでも同じなのだった。というか、スケジュールがほぼ彼らと僕らは同じで、こうなる運命だったのだ。
足の速い彼らは、涸沢のテント場にて降りてくる私たちを待っていてくれた。どこまで愉快で人情味のある人達だろう。惚れてしまうやろ。
テントをたたみ、徳沢に下山する。
もちろんそこには一足先に着いた担々麺の彼らがいた。テントというプライベートの距離感をほどよく保ちつつ、かつ、いい感じにコミュニケーションを取れる間合いでテントを張る。
流石に次の日のスケジュールは違っていたが、お互いSNSを交換し、また来年も涸沢で会えるかなとお互い言いつつ、サヨナラを言った。
SNSはその後あまりやり取りはしていないが、きっとガツガツ登っているに違いない。
いい人達だったね、と、私達は上高地から大阪に帰った。
そんなとても良い思い出をいただいたあの担々麺の2人が、今、まさに、今、剱岳を背に、立山の山頂で、群衆をかき分け、私達に手を振り、まるで、私のカップラーメンを奪いにくる勢いで、大声で名前を呼び、こちらに突進してきている。なんたる運命。
続く