昨日とはうって変わっての大快晴である。今まで通ってきた、東鎌尾根、そして西岳、さらに表銀座。はっきり見渡せる。
下には殺生ヒュッテのテント場が見える。ラーメンを食べたヒュッテ大槍も見える。
見た感じでは、昨日見えなかった小屋は、意外とどこも近く見える。昨日の霧の中では、100メートル先も見えなかったので、遠く感じたのだが、こうやって見ると、コンパクトにまとまっている。
槍ヶ岳と、今いる山荘の場所は東西の関係にあり、ここから見上げる槍ヶ岳は、ほぼ逆光でシルエット状態だ。午前中はこんな感じで、夕方になると、赤く染まるのかもしれない。その頃はもう、麓に降りているので、今回は見ることができないだろう。
列は長く伸びている、そしていっこうに進まない。
槍ヶ岳の登頂ルートはほぼ、登りコース、下りコースが別れているのだが、二箇所ほど、交わっている。
鎖場と、梯子の上、いわゆる頂上だ。
鎖場は、下りの際、体を反転して降りる人も多いため、結構な時間がかかる。頂上は、満員の状態では、登ろうにも登れない。
そういった感じで、下には長い行列が続く。かれこれ30分は動いていない。ただ他にすることもないので、並び続ける。
昨日とは違って、岩場は乾いていて、非常に登りやすい。
一度登っているので、景色を見る余裕もある。一度登っておいてよかった。絶景間違いなしだ。小槍も見える。
そう、実はこの小槍に登るクライミングツアーにキャンセル待ちだが、予約してあったのだが、それが、叶わなかった。誠に残念。
飛行機が飛んでいる。
1時間位はたったであろうか、ようやく梯子付近までこれた。
がしかし、なんだか曇ってきた。
気温が上がって霧が出やすくなっている。
嫌な予感しかしない。
でも進むしかないので、とにかく上へ上がる。
最後の梯子を登りきる。
着いた。
なんとなく、曇っている。
昨日よりは、マシなので、霧が晴れるのを待つ。
1時間とは言わないものの、それくらいは頂上にいた。たまに雲の切れ間から、山荘や周囲の山並みが見えた。
これ以上は天気は良くならないだろうと、下山した。
あるあるなのだが、下山中に晴れることがある。あれは、あってるようで間違いだ。晴れるタイミングが一瞬、それが何回か、あるだけで、現状とは一切変わりない。ただ観察者は、連続して晴れていると、思い込んでしまうのだ。振り返って晴れていても、それは一瞬のことである。もちろん、そうでない、実際晴れた、という時もあるだろう。それはそれ、人生は、五分五分だ。
下山にも時間がかかる。結局山荘まで着いた頃には2時間以上経過していた。ただ、振り返ると、もう槍の先は雲に包まれていた。まあ、よしとしよう。
山荘に戻って、ご飯をいただく。
カレーと、牛丼。
なんだかんだ、カレーが続く気がするのは気のせいだろうか。山といえば、カレー、そう、それでいいのだ。
ロビーや外になにか大会であろうか、ゼッケンを付けている人たちがいた。そのゼッケンには、「TJAR」と書かれている。
調べてみた。
えげつないレースだった。
日本海から太平洋まで、剱岳、薬師岳、そしてここ槍ヶ岳、木曽駒、仙丈ヶ岳、聖岳など、アルプスを大縦走するトレランの親玉のような大会だった。しかもエイドサポートなし、つまり、全て自分の背中に食料すべて背負ってのレース。恐ろしい、そういえば、この前の豪雨もあったに違いない。なんともすごい人達だ。
そいうえば、ほとんどの登山客が、羨望の眼差しで見ている。
私もさっきから羨望中だ。
それにしても彼らは荷物が少ない。極限まで切り詰めてるのだろう、自分に置き換えると、怖い。そして、あのゴツゴツした尾根を走るのだ。信じられない。そっこう足を捻挫する自信がある。
同じ場所にいながら、のんきにお金で買ったカレーを平らげている私とは真反対だ。このカレーの匂いが、彼らに届かないことを祈るばかりだ。
ご飯を終えると、お水の補給をして、下山の準備をする。
ここからは下りだが、道のりは長い。体力は使わないが、怪我に気をつけないといけない。私はだいたい下り、ゴール手前で足をくじく。
そういえば、西岳に着く直前の階段でも足首をグキッといわしてしまった。
下りは足にかかる体重も大きい。
下り坂、ゆえ、足元の岩場や、階段が登りより、目に入りにくい。よって足元を確認しないまま、足場の悪い場所に足を乗っけてしまうのだ。
そう考える。
今いる、槍ヶ岳山荘から槍沢のババ平のテント場まで、がれ場の九折の下り坂が続く。
12時半、一歩一歩ゆっくりと下り始める。
20分ぐらいで殺生ヒュッテのテント場についた。ここをBCにして、下りたり登ったりは、やはりつらかろう。だが、夜はきれいに星と槍ヶ岳が見えそうではある。
登山道を整備している人たちに出会った。
感謝しかない、ありがとうございます。
そこからさらに下っていくと、播隆窟とう、洞窟があった。
昔、播隆上人が、ここで長い苦行をしていた場所である。すごすぎる。。。
どこかで雨男と、晴れ女が縄張り争いをしているのか、冷たい雨が降ったり、日差しのきつい晴れ間に変わったり、大忙しだ。
両方をまかなえる服は存在しない。かといって脱いだり着たりをしないと、冷え切ったり、汗だくになってしまう。多少時間はかかって、めんどくさいが、その都度適切な服を身にまとうよう、着替えを繰り返す。人間とは、ほんとに自然に対して無力な生命体である。
いや、逆に、温暖な地域のみに暮らしていた人間が、知恵を働かせ、高地や極寒地でも生きていける道具を作ったのか、それはそれで、すごいサバイバリティだ。そんな言葉があるのか知らないが。
次第に傾斜は緩やかになる。しっかりした川が現れる。
これが上高地を流れる梓川の源流となる。 その始まりの場所にいる。ありがたいことだ。
一人の登山者とすれ違う。その時会話した内容に「熊」という言葉があった。彼によると、出たらしい。おっかない。
途中、大きな岩が川辺にあった。それを見ていた登山客がいうには、最近のものらしい。これほど大きな落石があるとは、、、、すごい、、たしかに、大岩の上に、小石が乗っている。たしかに最近の状況に違いない。。
しばらくすると、見えてきたのはチラホラのテント、そう、今日の目的地、槍沢キャンプ場である。
ここは川に面していて、今までの稜線上のテント場とはまた違った環境だ。風も強くなさそうだし、居心地が良さげだ。
細長い敷地をひととおり見て回り、テント場を決めた。
すでに、くつろいでいる登山者が多い。
テントを広げ、組み立てる。
慣れたものとはまだまだ言い難いが、手順も決まってきた。
ここは石が多いので、ペグを打たなくとも、石に巻き付けて固定できる。石はそこら中に転がっているので苦労はない。
時刻は16時、ご飯の用意もする。
周りの人たちも食事の準備を始めている。
ここでなんと、また大雨が降ってきた。今日何回目だろうか。
しばらくすると止むと思っていたが、一向に止む気配はない。
この時間に、今こうできていてラッキーだ。登山中、そしてテント設営中とかではなくてよかった。
雨がやまないので、テントの中でご飯を作る。
テントには、床でないスペースがあり、そこは雨もしのげる。そこで一旦湯を沸かし、ご飯を作る。カレーだ。またカレーだ。カレーは最高だ。。。
食べ終わり、コーヒも飲み終わり、くつろぐ。
幼少期、雨の日は、家で遊んでいたものだが、あれは、何故か居心地が良い。どうしてだろう、束縛の中の自由、人生ゲーム、トランプ、最高に面白い。
どうして持ってこなかったのだろう、トランプ。
ウルトラライトトランプなるものが売ってないだろうか。
これはトランプではなく、ランプだが、これはほんとにいい。
軽いし、充電式だし。テントに吊るしたり、。
仰向けでいることが多いので、ライトは眩しくならない場所に置き換えると快適だ。
明かりは大切だ。
このLEDはどちらかというと、白っぽいので、私は中にオレンジのフィルターを入れて暖色にしている。こちらのほうが、落ち着くような気がしなくもない。
雨は降っているが、先日の西岳の豪雨を経験した私達は、このテントにすっかり信頼を寄せることができた。雨の音を聞きながら、眠る。
続く