最後の尾根から、素晴らしい景色を見ながら頂上まで歩く。今までの苦労が報われる瞬間だ。わずかながら霧氷が育っている。充分きれいだ。そして、周りの景色を堪能しながら、綿向山山頂に着いた。
抜けはよく、遠くまで見渡せる。白山も見える。雨乞岳の向こうに鎌ヶ岳、そして鈴鹿山脈の向こうに伊勢湾周辺の街も見える。
ああ、来てよかった。風もさほどではないし、雪や雨も降ってない。ただただ寒い。
早速ご飯に取り掛かる。
もちろんカップラーメンだ。こう毎週毎週、山だから0カロリー説を謳いながらカップラーメンを食べていると、胃腸に悪そうだが、山だから大丈夫。
今回はガスを持ってきたので、サーモスのポットから約90℃のお湯を再沸騰させる。料理は一手間で見違える様においしくなる。炒飯は家庭ではボウルにご飯と溶き卵を最初から混ぜる。ご飯はサトウのご飯を温めずにそのまま入れるとより、美味しい。油はラードが良い。
そんなことを考えつつ、3分を待つ。
冬山での3分は長い。
2分50秒
その10秒後
できた。
頂きまーす!山の頂きで頂くから「頂きます」なのか。いや、ちがう。「頂戴する」が語源のはずだ。
とにかく山の神に感謝を捧げていただく。
美味い。やたらと美味い。これで0カロリー(山だから)なのだから山は素晴らしい。
ささっと食べきる。おにぎりも頬張る。
美味い。もう何も要らない。
ビールと唐揚げ以外。あとヤゲンナンコツと、餃子と、味付け海苔、冷奴、卵かけ御飯以外。
食欲の鬼とかした私たちの胃袋はひとまず落ち着いた。
この日はクリスマスなので、ケーキを持ってきた。コンビニケーキ、形が壊れていないか心配だった。
なんと、無事形を保ったまま、ケーキは山頂に立っていた。
素晴らしい。
というわけで、ツェルトを立てて、コーヒーとともに頂く。
メーリークリスメース。
うまい。
またまた美味い。
そして、眠気が襲ってきた。
しばし寝る。
ああ、気持ちいい。なんと幸せなんだろう。
と、寝続けることもできないので、充分寝た気になってそそくさとツェルトをしまい、下山の準備をする。
そうそう、あのテムレスブラックも大活躍だ。
黒と青では全然市場感が違う。
帰りはチェーンスパイクをつける。登りより下りの方が滑りやすいし、あのズルズルは有ると無いとでは、全然違う筈だ。
素晴らしい景色を見納めながら尾根を下る。
また会う日までー。
尾根から斜面に出て、ズルズルを下っていく。
チェーンスパイクおそるべし。全然滑らない。
持ってきてよかった。
そういえば、持ってくるだけ持ってきたピッケルも何気に役に立っている。体重を任されるのはやはりトレッキングポールとは違い、頼もしい。
ズルズルを無事終え、祠に着いた。
気温も上がり始めたので着替えを済ませる。
あとはのんびり降りるだけだ。
下りの距離感は上りの半分くらいだ。
というわけで、あっという間に、鐘の避難小屋、そして杉林へ入る。
ここまでくれば、もう着いたも同然だ。
あとは、足をひねらないように降りようねー、声をかけているその瞬間に、足首を捻ってしまった。
どうしてだろうなぜなんだろう。
ああ、またやってしまった。
ぐっと、痛みが収まるのを待ちつつ、歩き続ける。
そんなこんなで、無事、登山口に帰ってきた。
あとは、バス停までのんきに歩いて帰るだけだ。
「バスは16時23分が祝日は最終らしい」説が私達二人に舞い降りた。
そいえばそんな言葉がバス停に書いてあったような。。。。
只今の時刻15時50分を回っている。
マジすか、行きでもダラダラと歩いてきたわけではない。しっかり歩いて40分かかったのだ。
残すところあと30分。
私達は走った。
メロスよりもまじめに。
とにかく走って10分稼がなくてはいけない。
しかもバスが23分丁度に出るとは限らない。
少しでも早くバス停に着かないと、タクシーを呼ぶしかないが、絶対に呼んでも来そうにない。あとは、歩くか。
だめだ、プランBがない。
走ってバスに間に合うしかない、その一択と確定した。
登山の後に、ランニングが3キロ以上あるとは、考えもしなかった。しかも、本日は蓋入りとも負荷をかなりかけたザックだ。筋トレ以外何物でもない。
ペースが上がらない。
半分まで来たところで、相方のザックも持つ。
もうこうなったら根性で走り続けるしかない。
相方はペースが上がり、先へ行った。少なくとも一人はバスに乗れる。これで良い。
気分は新兵、私は鬼軍曹に罵られながら走り続ける新兵。
少し萌えてきた。ドM気質はこういうときに役に立つ。
そして、あと10分のところで、歩くペースで間に合うとわかり、ランニングを終了。
良かった。ああよかった。
そして無事まだバスは来てないであろうバス停に着いた。
時刻表を見る。
7時までバスはある。
「4時で終了」なんて注意書きはどこにもない。
、、、、、、
まあ、いいじゃない。早く帰れるんだし。
火事場のクソ力とはよく言ったもんで、後にもバスが有るなら、私達はあのペースで走っただろうか。答えは明白だ。
そこにバスが来た。
無駄半分の苦労を何も知らない運転手に運ばれ、私達は近江八幡に向かいながら眠りについた。
ふと目を開けると、外はもう暗く、あのまま、1時間なにもないバス停で待つことになるパラレルワールドに没入し、改めてあの時、走ってよかったと思うのであった。
そこからは、もう、記憶のない旅で気がつけば、いつものようにビールとからあげを楽しんでいた。
ちなみに、最近行っている居酒屋では、今回は頼まずともお互いのファーストドリンクが出てきた。おもてなしの境地である。