昨日とは打って変わっての快適な涸沢テント場。
青と白の世界。ぐるり穂高の稜線に囲まれた涸沢カール。これが見たかったのだ。
そしてここの日没は早い。明日、登る奥穂高の右手にあるコルの部分に陽が沈む。まだ時間は夕方にさえなっていないが。
日が沈むと一気に寒くなるので、そうなる前に乾いた装備を取り込んで夕食の準備に取り掛かる。
前回
夕食
今晩のご飯はなんと、チーズダッカルビだ。なんとも複雑なメニューにしたものだ。だがこの余裕の時間。余裕でクッキングだ。
鶏肉をピチットシートで脱水したものを冷凍して持ってきた。
ピチットシート
ピチットシートとは高分子吸水成分が閉じ込められたラップだ。これに包んでおくと、魚や肉の水分が抜ける。スーパーなどで売られている鮮魚なら少しだけラップするだけで臭みがなくなる。しっかり時間を掛けると燻製時の乾燥作業が省ける。とてもありがたいシートだ。
アウトドアにおいては、水分が抜けてるぶん、軽量化と、腐敗防止に役立つ。
その賢い肉と玉ねぎ等を炒め、ダッカルビの素を入れる。山に似つかわしくない芳醇な香りがしてくる。最後にチーズをたっぷり掛けて溶かす。出来上がり。
向かいのK氏二人は慣れた手付きでぱぱっとご飯を作ってすでに食べ終わっている。かっこいい。ああゆう大人になりたい。
さあ、いただこう。う、うまい。うますぎる。
とろけたチーズにとろけるジャンイチであった。
ただし、後片付けがいつもより大変だった。大変だった。。。
星屑とテントの明かり
すっかり日没し、青い世界の涸沢カールにこんどはテントのカラフルな明かりが添えられる。
空には星座が認識できないほどの星の数。等級?なんですかそれ状態だ。
テントの中を整理し、時間が経つのを待ち小屋の隣の高台に皆集まる。
そこから見える光景はまさに雪上にばらまかれた宝石だ。
しばし見とれる。この景色はこの時期、ここに来たものでしか味わえない。ぜひ皆さんもきてほしい。そしてテント泊の人たちは小屋泊の人とはまた違った感覚でみることができるだろう。
テントに戻る。昨日とはうって変わっての快適なテントナイトだ。寝袋もふっかふか。至高のベッドルーム。
即座に眠れそうだ。
明日は奥穂高、しっかり寝てぱっと起きよう。
あ
朝だ。あっという間に朝になった。
途中で起きることもなく快適な夜だった。
出発に向けて準備を進める。今日は穂高岳山荘に泊まるのでテントはここに張ったままにして、置いていく。鍵をかけると安心だ。おすすめ。
天気は快晴、よく焼けそうなので日焼け止めクリームを塗る。昨日塗り忘れたので、すでに手遅れかもしれない。反省。(後日、ジャンイチは鼻の皮が剥けた。)
出発
5時半、快晴の中いざ奥穂高に出発。まずはザイテングラードの右側に向かって伸びている登山者の列に向かって登る。下調べで先日そのさらに右手の斜面で雪崩があったようで、確かに変色した部分が扇状に広がっている。みなそこを避けて、進んでいる。
きれいに踏まれたステップを登っていく。非常に登りやすい。景色もいいし、最高だ。太陽もまだ顔を出していないので雪の状況も良い。
1つ目の大きな斜面を登りきる。ふりかえると、小さくテント場が見えた。ふふふ、もうここまで来たんだ。ゴールはもうすぐだ、と勘違いしてしまう瞬間。
休憩を繰り返し、私達4人は黙々と登っていく。
次第に明るくなってきて青空が広がってくる。
ザイテングラードの尾根が近くに迫ってくる。これを登りきれば、着く。
デブリがゴロゴロとしているのが恐ろしい。
ザイテングラード
ザイテングラードが隣に見えてきた。これを越えればとりあえず一旦ゴールの穂高岳山荘だ。今年もあるかGW限定担々麺。黙々と登る。ただしなぜか、快適。
斜面は次第にきつくなるが、みなテンポよく登っていく。程よいペースで休憩を程よくするというのは良いことだ。全く疲労感がない。
最後の鞍部が見えてきた。ただし人影は小さい。皆進んでいるのだろうが、止まっているように見える。降りてくる人がいるが、当たり前だが全く疲れていない。同じ場所にいるのに、なんだこの疲労格差は、まったく理不尽だ。と理不尽なことを考えたり、明日は我が身だと当たり前のことを考えたりしながら降りていく人を見届ける。
かわいらしい雪の造形に和む。
振り返るとすばらしい世界。
さあ後少し、後少しだー。このへんなら「もう少しですよ」と言われて納得できるだろう。まだまだゴールが遠いのに、励ましの一声は逆効果になることがあると思っているので、私は声をかけるときはけっしてそんな甘いことは言わない。「がんばってくださいね、まだまだですよ!」と言う。
そう、この稜線を越えると、しばらく見えていなかった奥穂高の取り付きが見えた。そう、ついたのだ。わーいわーい。
8時40分穂高岳山荘到着
そして無事今年も穂高岳ラーメン店、いや山荘に着いた。開店はまだまだなので、ラーメンは奥穂高の後だ。さっといってさっと降りよう。おお、食欲は速やかな下山を促す効果を今、再確認した。涸沢テント場が真下に小さく見える。
穂高岳山荘にお泊りセットなど、いらない荷物をおいてゆく。
あらためて装備を見直す。
さあ、いよいよ奥穂高岳に向けて出発。
つづく。