10時
室堂、ここから立山三山がよく見える。多くの人がいる。6割が登山客で残りは観光客といったところか。雄山に向かう道、そして私達のように雷鳥沢に向かう道、この2つに登山客は分かれる。整備された石畳を通っていくと、大きな池に出くわす。みくりが池だ。
空の青を反射させただけでは足りないくらいの青い池。皆がここで記念写真を撮っている。
前回↓
水を3L入れたザックはいっそう重い。腰を置く場所がないと背負えないくらいだ。
胸の前にカメラバックを吊るしているのでまだバランスが取れているはずなのだが、効果ははたしてあるのだろうか。今回の登山の前にから膝と足首がたまに痛むのだが、今回は速攻その患部に違和感が出ている。さすがこの荷重の効果。
とぶつぶつ言ってもザックは軽くはならないので、ただひたすらに景色を楽しみながら進んでいくことにした。一応の処置として、膝と足首のテーピング、そしてロキソニン錠剤でカバーしている。
室堂の出発地点から一旦雷鳥沢に降りる。そしてまた登り返すのだ。ここにまっすぐ橋をかけていただきたい。またはジップラインでも良い。
妄想で何かを補いながら一歩づつ階段を降りていく。蛇のようにつづら折りになった道はまるで三途の川に降りていく道のようだ。見たことはないし、そんなものあるのかは知らないが。
すれ違う人はゼーゼーハーハーと息があがっている。下り坂を逆に進むとこうなるらしい。知っているが。
それにしても暑い。高地はそこまでではないと思っていたが、とんでもない。むしろどこよりも暑い。めんどうだが、あとの祭りにならないよう日焼け止めクリームで、日焼けを防ぐ。
歩道の右側に地獄っぽい池がある。やはりここは三途の川だ。
まるで万里の長城のような道を延々と進むと眼下に、まだ眼下だが、そこに雷鳥沢のテント場が見えてきた。お盆休み、さすがにいっぱいだ。と思っていたが、そうでもないという意見も周囲から聞こえる。ふーん。
ちなみに今回の登山靴は軽量のアプローチシューズ、SCARPAのメスカリートミッド。岩場でのグリップが抜群である。
ザックはThe3rdEyeChakraの60L。パンパンである。
ひたすらに下り道を降り、雷鳥沢の底についた。
11時15分
お腹が空いてきたので、ここいらのベンチで昼食をとる。
コンビニで買ったサンドイッチを食べる。
「コーミソース」と表示されている。なんだろう、この地域の定番ソースなのだろう。たしかにとても美味しかったが、今となってはどんなあじだったか記憶がない。でも確かに美味しかった。隣で法政大の山岳部だろうかが、どえらいスケールの会話をしている。海外だったか、とにかく高い山で中島健郎氏にあった話題を覚えている、うらやましい。
トイレも済ませ、ここからの登りに覚悟を決める。というのは言葉だけで、覚悟を決めないまま、ただ、進む。橋を渡る。ここからは一気に登り返しだ。一気に会話量は減少する。
そのぶん景色は絶景に変わっていくはずだ。それが励みである。
一旦の目標点は見えている。はるか遠くに。そこを目指して雷鳥坂を登る。
一歩一歩ゆっくり歩幅を狭くが基本だ。トレッキンポールも使って登っていく。
高山病チックになりやすいのでそれも気にしながらゆっくりと歩く。
降りてくる人も当然いる。皆楽しそうだ。羨ましい。いや待てよ、彼らはここを終えても室堂まであの激坂階段をのぼるのだろう、頑張れ。
勾配が急だと振り返った時の変化が大きいので、それは良い。ただしんどい。
雷鳥沢のテント場が小さく見えてうれしい。どんどん小さくなあれ。
先はまだ長い。焦らずゆっくり。今日はただ到着すればいいのだ。ああ一日目はしんどい。背中の重みに耐えながらゆっくり登っていく。けっして足をくじいてはいけない。
休憩を随時入れながら登っていく。姿勢を変えてみる。トレッキングポールをやめ、両手のひらをショルダーパットの間、胸辺りに挟む姿勢。これは以前ショップの店員さんから教わった重いものを持つ時の楽な姿勢だ。するととたんに楽になった。もっと早くやればよかった。
13時40分
うずくまる女性がいた。その傍らではもうひとり女性がいて電話をしている。どうやら一大事のようだ。声をかけてみると足を痛めているらしい、詳しくはけが人の本人もわからないようだった。救助はまだ来ていない。たしかK氏はもう、剣沢のテント場についている。あそこには富山県警のレスキューが常駐していたはずだ。K氏に電話してみる。だが応答がない。とそのタイミングで上から駆け下りてくる男性がいた。救助の人だった。だれかが通報してくれたのだろう。私はじゃまにならないよう、彼女らから離れた。男性が膝をめくると出血が見えた。同時に電話していた同行の女性が悲鳴を上げた。おそらく結構な怪我だ。下山中の転倒からの怪我だろうか。
私達はその場を去った。日常の道路でもそうだが、事故現場のあとはよりいっそう気をつけて行動する習性がある。今回もそんな感じで黙々と足元を見ながら登っていった。
取り付き以来見えなかった乗越がようやく見えてきた気がする。こうなればもう少しだ。体勢をかえてから、ずっと調子が良い。焦らず登っていく。
14時10分
劔御前小舎到着
やっと登り坂が終わった。全行程での一番大きな登りが終了。あとは欅平まで下るだけ、だと思っていたのだが、後に大きな勘違いだと気がつくことになるが、今はそんなこともつゆ知らず、脱力感に包まれていた。
少し休憩、その時ヘリコプターの音が聞こえた。雷鳥坂の方だ。見渡せる場所に言ってみると、さきほど怪我を負われた人付近にホバリングしていた。どうやらあの方の救助のようだ。ヘリは着陸することなく要救を吊り上げ、機体内に運び、一気に降りていった。無事に回復してまた戻ってきていただきたい。
見物者もじーっとそれを見て、ヘリが見えなくなると同時に自分たちの行動にもどった。
剱岳がよく見える。雲も少ない。明日もこの調子で晴れてほしい。剱沢御前小舎周辺は休憩する人で賑わっっている。ここは峠、登山道が十字路になっている。私達が来た道そしてこれから剱岳に向かう道が南北だとするとちょうど東に別山、雄山へ向かう稜線の登山道、反対に西には奥大日岳に向かう道がある。おおかたは雄山に向かう人、もしくはそちらから来た人。残る人が南北に、そしてわずかながらが西に行き交う。
別山の尾根と怪しい雲
剱岳の雄姿
さてここからは広い斜面を降りてテント場に向かう。かすかに小さく見えるテント場があっという間に着きそうなのに、足場が悪くなかなか進まない。浮き石も多く、足場の選定に迷う、中途半端に歩いていると確実に足を捻ってしまう。
もしかしたら登りよりもゆっくりではなかろうかというペースで降りていく。なんと言ってもザックが重い。バランスがとても大事だ。前に行く相方が難なく乗った石も私が乗るとグラっと動く。
右手の尾根でクライミングをしている声が聞こえる。テント場に近く、とても良さげだ。
足元ばかり見て進む。たまに見上げるとテント場が近づいているのが嬉しかった。
そうして、とうとうテント場がもう手の届くところまでのところに来た。
K氏たちが待っている、でも焦ってはいけない。テント場につくまでが登山だ。
画像を拡大してみると、K氏らしき二人組がいた。
15時45分
そして最後の斜面を降り、やっとテント場に着くことができた。
相方が先にタタタターっと行ってしまった。わたしはもうヘトヘトなので早く歩けない。
無事再会を果たした私達。冷えたビールを頂いて皆で乾杯した。うまい。うますぎる。ケーキも頂いた。そしてテント場も確保してくれていた。もう、この御恩はどうやってかえそうか。5年計画だ。
とりあえず、腰を下ろし、果切らないうちにテントをこしらえる。
もう今となっては記憶がないが、なんとかテントは作れた。
月が出ていた。
この日は、レトルトのハンバーグとビーフシチュー。なんやかんやあって余ったおにぎり。マッシュポテトも食べたかったが、見当たらなかった。
今回、タンパク源として炒めたミンチ肉の乾燥させたものを持ち込んだ。色んなものに
ぶっこんで美味しい食生活を送りたい。
そして、劔の夜となっていく。
続く。