暇な小屋生活
小屋の中は昨日とは違い、静かだ。知り合った人たちと団欒という名の暇をつぶして時間をを使う。濡れたものを乾かすエリアには一組のグループがいて、彼らは山岳写真の会の人たち。そんな会があるのかと、一つ賢くなった。
たまに外の様子を見に行くが、やっぱり天候は良くならない。
時間は淡々と過ぎていき、夕ごはんの時間になった。
晩ごはん
今夜もボリューム満点のメニュー、エビフライにメンチカツ、牛皿、魚煮付け。なんだこれすごい、、、。
前回
食べ切れるのかまたもや不安になる。ゆっくり噛み締める。うまい。そしてなんだか皿がゴージャスだ。この皿もまた下から持ってきたのだろう。普通は軽いプラスチックの皿だが、ガッツリこれは陶器だ。重い。思い。
青年はなぜだかあんまり食べない。お腹はペコペコらしいのに。年長のおじさんが気がついた。そうだ、彼は宗教上食べれないのだ。何ということだ。。。
聞けば、食べる人もいるらしい、グレーゾーンがあるようだが、彼は立派な精神なので、手を付けない。酒も飲まない。そしてスリムでうらやましい。
どうにかがんばって完食した。山登りでは痩せない。
寝るまでの時間を使ってザックの話
今回小屋ではほとんどの時間、この食堂で過ごしている。二回の寝室は寝るときしか入らない。装備の整理も食堂だ。なんならザックも食堂に置きっぱなしにしている。
今回のザックは、Hyperlite mountain gearのPRISM PACKだ。
素材はダイニーマ製、サイドにスキー板等を装着できる。ヒップベルトと、上蓋は取り外し可能、40リットルで、900グラム以下。素晴らしい。
ただし、白いので汚れが目立つ。毎回帰宅後、お風呂で汚れを落とす。愛だよ愛。この黒モデルがでたら、相当売れるだろう。この素材は黒、あるのかな?
明日はとっとと下山するだけだ。天気が良ければドローンでもあげよう。天気が良いと言うのは、農家なら適度な雨と晴れが続くことだが、山では風だ。風が一番危ない。体が吹っ飛んでいく。
夜になっても天気は優れない。ああ、昨日夜景撮っとけばよかった。と、祭りの後にいつも思う。
なぜ山に登るのか
なんで山に登るのか?といろんな人に聞かれるので、自分でも考えてみることが増えた。
いろいろ考えた結果、「なぜ山に登るのかを考えるために山に登る」これがいちばんしっくりきた。まいどまいど、答えは見当たらないし、毎回答えが違うかもしれない。
ただ、山頂でカップラーメンを食べる、というのは、一つある。下山後のビールのためにというのも、あるといえばある。
また、登山はスポーツのカテゴリーでもあるのでややこしくなる。勝ち負け、そしてタイム更新などを考えない真剣勝負のスポーツを「なぜするのか」ということだろうか。ボクシングでも、サッカーでも100メートル走でも、勝者はもちろん敗者も、そしてタイム更新しなかった人も、みんな笑顔で笑って終わるスポーツ、のようなものだ。もし、観客がそれを見たなら、いささか茶番に見えてしまうだろう。その競技者に、怪我のリスクもあるのに、勝ち負けもないのになんで(ここでいう架空の)サッカーをやっているのか、不思議に思うだろう、それと同じかもしれない。
そんなこんなで、明日の準備を終え、寝る。
布団の脇にヘッドライトスマホ、水をおいて寝る。これはどこでも必須だ。山小屋はインフラは完備してない。災害時に近い感覚が良いだろう。山に入ると財布は殆どいらない。宿泊費、食費、トイレ使用費以外に使うことはまあない。ああ、バッジと手ぬぐいくらいか。
日の出
数時間がたち、日の出前に起きる。新年2回目の日の出を拝みに準備する。どうやら天気は回復しているらしい。カメラとピッケルを持って外に出る。爽やかな紫の朝。昨日と全く同じだ。同室の消防士の男性と一緒に中岳に登ってみた。昨日とは違った朝焼けが見えた。
元気玉を持つときは、自分の手の影をレンズに来るように動かすとかんたんだ。
来てよかった、これが「なぜ山に登るのか」の答えかと聞かれると、そうではない気もするが、あってる部分もあるような気がする。
ご満悦で小屋に戻ると朝ごはん、素晴らしい。
朝食
朝は毎度適量で嬉しい。
みんなで、今後も会えたらいいねと語り合い、かつ、細かい連絡先は交換しない感じで分かれる。これが良い。連絡を取り合えば、偶然会えることがなくなる。
とおもっていたら、そうはいかなくなった。おじさんの一人が、手袋をなくしてしまったようで、私の予備を貸すことにした。なので、連絡先を教えて、後日返送してもらうことになった。でも、それはそれで、ほっこりした。
ドローン
私は一人残り、ドローンの準備をする。mavicminiという超軽量のドローンだ。若干風が心配なのだが、それもテストだ。
外に出てドローンを飛ばす、上空に上げるとものすごい勢いで気体が揺れた。荒波に揉まれる小舟のようだ。とりあえず風のない層を探しながら上昇させる。なんとか1フライトはできたが、地形上、常に風が吹いている状況だ。あまり無理はできない。それに199グラムという凧みたいな重さのものを上げているのだ。致し方ない。
バッテリーを換えてもう一度上昇させると、一気に風にもっていかれた。まさに凧。こういうときは低空で帰ってくるか、その場に着地させるのがよい。その場に居続けると、ホバリングできず吹っ飛んでいく。
宝剣岳を回そうかと思ったが、とてもじゃないので諦めた。やっぱり、phantomくらい持ってこないと風はきつい。
下山
とっとと片付けて下山に切り替える。
おじさん二人は先に千畳敷に降りた。若者は木曽駒ヶ岳に登ってから降りると言っていた。
お世話になった宝剣山荘に別れを告げて下山する。
天気は良好、往路とは全く違う状況だ。登ってくる人の迷惑にならないように、横に避けてザクザクと降りる。一気に降りたのでロープウェイまで15分もかからなかった。
振り返ると行きは見れなかった、見事な千畳敷が見えた。ああ来てよかった。
早くも再会
建屋に入ると、先行の二人に会えた。というわけで、無事下山を祝ってビールで乾杯。
手袋もその場で受け取ることができて一石二鳥だった。
ロープウェイの時間まで結構あるのでダラダラと過ごす。ここまでは簡単に来れるので、お洋服で来ている人も多い。お洋服以外の人とは山でもう全員とさっきすれ違った。
もうすぐロープウェイの時間というときに、若者が降りてきた。さっそく全員揃って再開してしまった。こういうものだ。ロープウェイに乗り込みに移動する。
テーブルに高そうなカメラがぽつんと置かれていた。明らかに手袋おじさんの忘れ物だ。大丈夫か、この先。
その後も、バスを降りるまで、一緒だった。
バス停で、それぞれに分かれて解散した。私は例によって温泉に入って、カツ丼を食べて、ビールを飲んで、そして、バスに揺られて大阪に帰ったのであった。
後日談
帰宅、数日後のある日。
手袋を貸したおじさんから、お手紙と写真が届いた。カメラの忘れ物のお礼の文面だった。
山に登ってよかったなと、思った。
おしまい。