鎌ヶ岳、頂上
曇っていて、風はやや強い。ちらりほらりと、登山者は数えるほどしか居ない。なんだかサクッと到着した感があるのは、隣に御在所岳がそびえているからだろうか。
お昼ご飯、相変わらずカップラーメンだが、そのごちそうを準備していると、一人の壮年登山者が登ってきた。いろいろ話を聞いた。彼いわく、この鎌ヶ岳や、御在所岳には、ウキウキわくわくな谷がいっぱいあるので冬は嬉しいとのこと。西穂を諦めてここに来たことを伝えると、先日行って来たけど、独標までなら大丈夫だよ。とのお言葉を頂いた。いやいや、風体からしてなにかしら私達と年季とレベルが違うように見える。そんな彼は、右俣だか左俣だかの谷を降りると行って消えていった。
なかなかすごい人だったねえ、と私達二人は熱々のラーメンをすすった。
前回
さて、この後いかがいたしましょうか?と相方と相談した結果、あの斜面を下る元気はもうないということなので、最短で道路に出れる武平峠をめざすことにした。
そこからは、閉鎖中のスカイラインをただ下ればいいだけだ。
鎌ヶ岳、下山
一通り山頂を楽しんだ後、私達は下山を開始した。
ザレた細い尾根、木々の間に埋まる雪の中に眠る落とし穴、となかなか爆弾な道であった。何度ズボッとハマったであろうか、丸一日ドッキリにかけられるお笑い芸人もびっくりの回数である。最終的にはハマった時「もうええって」と言ってしまった。急がば回れとはこのことだろうかと、一瞬よぎったが、忘却の彼方に投げ返した。通常コースタイムは40分と出ているが、軽く1時間はかかった気がしてならない。実際には50分だったが、きっと時計が狂っているのだ。
荒れ狂う道だったので、写真はない。
ようやくトンネルの脇に出た。
延々と続く道
ここからの登山道もあるが、道路を行くことにした。
道路には雪が積もっていた。
相方が買ったばっかりのワカンを試そうと装着して歩き始めた。雪道は30メートルほどで終わってしまった。歩く時間より、装着時間の方が長かった。残念そうな顔を隠しきれない素直な相方だ。
ここからは、ただひたすらに道を降りていく。
車は急斜面は登れないので、ダラダラと曲がった道路となっている。3歩進んで2歩下がるような道を歩き続けた。気がつけば、これが一番きつい行程だった。約1時間、延々と下っていった。
堰堤あるあるだが、泣いている顔があった。
トドメに目印の駐車場をどういうわけか通り過ぎてしまい、無駄なプラス30分、歩く羽目となった。
目指す宿、ホテルドマロニエが見えてきた。
入り口がわからなかった私達は、スマホのナビが誘うまま進み、裏口に着いてしまい、まさかのホテル前藪こぎをすることとなった。
やっとこさ、宿到着
そんなこんなで、私達は無事、ホテルに着き、装備を外し、風呂に入り、しばし、眠った。
夕食は付いていないプランだったが、食事の目処は付けていた。
この周辺に一軒だけあるお食事どころ「えん」という店だ。
ロープウェイ乗り場よりも下にあるバス停の近くにある。
そこに電話をし、予約する。
「はい、大丈夫、待ってますよ」と優しい声が聞こえた。うん間違いない。
時間になり、私達はてくてくと居酒屋「えん」に向かっていった。
坂道を降り、バス停の向こうの細道の先に黄色いパトライトが回っている。その先には交番がある。
そのパトライトの店が目的地のようだ。
居酒屋「えん」
ドアは家の玄関のようだ。引いて開けると、誰も居ない。
時間は間違っていない。
「耳をすませば」というアニメ映画に主人公が「地球屋」というアンティークショップに入っていくシーンがあるが、あれを思い出せる人は、思い浮かべてほしい。
、、、、、
、、、、
すみませーん、と声を掛ける。
はいはい、と奥から白髪の主人が出てきた。
電話したものですけど、、、
ああ、いらっしゃい、どうぞどうぞ、と笑顔で招いてくれた。
まずは生ビールをいただく。
うまい、うますぎる。すぐになくなったので、もう一杯。
注文を何品か済ませ、主人と会話する。
自然と会話は盛り上がり、いつの間にか私達二人は近所の売店の友達だろう人に貸した傘を回収しに主人のおつかいに行っていた。いや、正確には、ホテルに帰ってからのお酒を今のうちに買いに行きたいと、相談したところ、近所の売店にしか売ってないし、早めに閉まるから、今のうちに行ったほうがいいよ、料理も今作っている最中だから、とアドバイスを受け、「あ、そのついでに、『えん』の人が傘返して」って言って傘返してもらってきて、となんともいいきっかけのネタを頂いた次第だ。
言われるがままに、売店の人に伝えると、笑いながら傘を返してくれた。
ビールと傘を携え、私達は「えん」にもどった。なんとなくドアを開ける時「ただいまー」と、言ってしまった気がする。そんな空気にさせてくれるお店だ。
主人はありがとうと、言ってくれた。
そして料理が出てきた。お使いの後のご飯はさぞ美味しかろう。
にんにくの丸揚げ、ほくほくでおいしい。
アサリの酒蒸し、パスタが添えられていて、二度美味しい。
そして、ピリ辛の肉炒め(正式名称は忘れた)ビールに合う。
主人と私達は様々な会話で盛り上がった。
酒も進み、ホテルで食べなさいと、おつまみもいただき、挙句の果てには、帰りに車でホテルまで送っても待ってしまった。実家に帰ったかのような待遇に、涙がちょちょぎれた。
娘さんがやっているという大阪のお店にも顔をだす約束をし、お別れした。
また、来たときには、必ず寄ろう。
そうして、私達は、明日目指す山を目前にしながら、頂いたおつまみで宴の続きをし、眠るのであった。
大丈夫なのだろうか、明日。