横尾出発 10時30分
横尾から先も雨の様子。登山道は川沿いに凸凹の細い道が本谷橋まで続くはずだ。雪が積もっている場所と石や泥があらわになっている場所が混在している。上高地から涸沢の間で、一番足元を気をつけないといけないのがこの横尾から本谷橋の間だ。
前回
雪崩を聞いた本谷橋 12時
雨が降る中、黙々と上がっていく。まだ午前中だがすれ違う登山者もいる。道は狭いので気をつけないといけない。左手に見える屏風岩も雲に隠れている。
本谷橋がある場所についた。今年はまだ川は雪に埋もれている。対岸につきアイゼンを履く。ここからは雪渓歩きだ。ザックを下ろし、休憩を兼ねる。
突然「バーン!ゴゴゴゴーーーー!!」と聞いたこともない大轟音が鳴り響いた。周りにいた人たちが「雪崩だー」とざわついている。その音は次第に雪が流れる音に変わり、近くにもかすかにパラパラと雪が流れている。屏風岩の方から聞こえたからそのあたりだろうが、雷のような音でびっくりした。荷物をまとめ、音の発生源からなるべく離れたいが、完全にテンパっている相方を置いていくわけにも行かない。
しばらくすると現象はしずまった。なかなか不穏な予兆だ。この先どうなるのだろう。
そういえば、上高地でこんな不穏なことがあった。
コンタクトレンズ
登山は日光との戦いでもある。したがって私は普段は眼鏡だが、サングラスをするために1Dayのコンタクトレンズを使っている。今回も大量にコンタクトレンズを持ってきた。早速上高地の準備でメガネからコンタクトレンズに付け替える。あれ?おかしい、つけたはずなのにくっきり見えない。変な場所についたのかな?と思って確認。正しく黒目についている。不良品か?たまにはあるだろうと、もう一つ新しいコンタクトレンズを付けた。また、見えない。どうしたんだ?目が急に悪くなったのか?メガネをその上にかけてみる。ふつうにくっきり見える。悪化したわけではなさそうだ。このコンタクトレンズが度が殆ど入ってないのだ。こんな事があるのか?とパッケージの数字が目に入った。「-0.5」まじか、、発注ミスだ「-2.5」のはずだ。大量に持ってきた他のコンタクトレンズも見てみる。すべて「-0.5」だった。愕然とした。どこかに予備用のコンタクトレンズがあるはずだ。非常キットの中に1ペアだけ「-2.5」のコンタクトレンズがあった。1Day。いつ使うか?今でしょう、いや今ではない。
聞いた話をいやいや参考にする日がきた。「1Dayでも数日は使える説」だ。
うんよく保存液は無能なコンタクトが入った容器にたっぷりある。信じよう。
と、出発時から不運が降り掛かったのだ。この先何もありませぬように。すでに止むはずの雨は降り続けているし、なんなら強くなっているのだが。
アイゼンを装着し、涸沢を登っていく。「涸沢」とはカールや小屋のある場所を指すのではなく、そこに続く「沢」を意味する。あの場所を呼ぶなら「涸沢カール」もしくは「おでんとビールの場所」が正しい。
デジタル小電力コミュニティ無線機IC-DRC1
ここで持参した無線機IC-DRC1のスイッチを入れる。じつはペアで持っていて、もう一つは事前に先に入山したK氏に渡している。まだこの距離では入らないかもしれないが、それも検証のうちだ。試しに呼び出してみたがまだ反応はない。
たまに呼びかけながら登っていく。去年に比べて雪が多い。去年が初めての私達は勘違いしていたが、これがいつものGWの積雪量らしい。すばらしい。去年は左手の夏道を歩いた。今年は沢を登れる。突き進めばいい。横尾沢と涸沢の分岐点に来た。ここで無線がコンタクトした。
感度は良くないらしいがこちらはよく聞こえる。どうやら涸沢カールベースキャンプも雨らしい。悲しい。とにかく待っている仲間がいてその声が聞こえ、励ましてくるのはとても嬉しい。持ってきてよかった。その後も、お互い会話を続けた。私はザックに突っ込んでいるので確認できないがK氏は手に持っているので液晶が見える。なんとこのIC-DRC1は通話相手の距離が表示されるのだ。1.5キロからだんだんその数字が小さくなるのは全く景色が変わらない雪渓歩きの私達に大きな励みとなった。
そして、ついに私達はようやく傘をふるK氏ペアの姿を捉えた。
涸沢カール到着 14時45分
長い、あそこまでがまた長い。雨の中待ってもらってるのが申し訳ないくらい時間がかかる。一歩一歩ザクザクの雪を登っていく。
最後の急登を登りきり、無事私達は涸沢カールにたどり着いた。テント場はすでにK氏たちが隣を確保してくれていた。感謝感激。とにかくやっと座れる、その前に雨の中のテント設営。これがいちばんめんどくさかった。K氏が手伝ってくれなかったら小屋泊に変えていたかもしれない。ありがとう。
というわけで、つづく。