急がば回れ、とだれが言い始めたのだろうか。
私達は、多少険しいぞ、とは聞いていた右手のコースを選んだ。
それがまあ、なかなかの足場の細さのコースである。もちろんホールドしやすい場所ばかりだし、鎖もあるので安全といえば安全だが、ゆっくりすすむしかない。
一歩づつ進んでいく。
前回
急いでも一歩、ゆっくりでも一歩なのに、なんで「一歩づつ」はゆっくりの表現なんだろう。
ここも槍ヶ岳がみえていたら、それはそれで良いのだろうけれど、まったくもってただの霧に包まれた断崖絶壁の小道である。閉店ガラガラの表銀座商店街である。泣けてくる。
先行者がいたのが、救いであった。このコースを同じ理由で選んだ人たちがいたわけだ。呉越同舟。
このショートカットコースもさっきのレリーフの人が作ったのだろうか?いったいどうやって。。。
一山回り込むだけだが、これがやたらと大きく感じる。もうとっくに二週目に差し掛かってるのではないかと勘ぐってしまう。ぐるぐる螺旋状にあがっていき、そのうち、はい、大天井岳、頂上へようこそ!とかは、ないだろうか。
と、アリもしないことを考えながら進んでいくと、人工物が見えてきた。大天井ヒュッテである。
やっとだ。
しばし、ザレた下り坂を降りて大天井ヒュッテに着いた。
結局の所、コースタイムよりも大幅に時間を使ってしまった。
急がば回れとは、だれが言い始めたのだろうか。肝に銘じておく。
あとでいろいろリサーチした結果、左コースとたいして変わらない、時間ということがわかった。まあ、忘れよう。
格言を肝に銘じたいなら右側の崖コース、カレーを食べて、安全に進みたいなら左コースとおぼえておくとよいだろう。
ここでもあと1時間半待たないと食堂がオープンしないので、いたしかたなく、アルファ米をいただく。本来は「アルファ化米」らしい。アルパカ米でもアルファ米でもない。時刻は9時。
他の登山客もテーブルで食事を作っている。
鞍部に位置するココは見晴らしもそんなに良くない。ただただ休憩をする場所である。
お腹を満たす事が、運動のためのエネルギーになる事、山に来ればこれを実感できる。やれ「トロける口どけ」だの、やれ、「喉越しを楽しむ」だの、そんな事は実は人間に必要な食事活動には全く関係ないのだと、こういう時、本当によくわかる。
下山すると、喉越しのいいビールと肉汁たっぷりの餃子を求めてしまうのだが。
休憩の後、いざゆかん、西岳へ。
なんとなく天気も悪くなってきた。とはいえ、雨はふらさなさそうだ。
しばらくは稜線ではなく等高線沿いにトラバースしていく。
右手が斜め上で、左手が斜め下のポーズだ。これは偉大な師匠に教わった。
しばらくすると、「びっくり平」という場所についた。
なにがびっくりなのか、全くわからなく、びっくりした。
なお、槍様は、未だ姿を見せず。
常念さんはしっかり見えている。きれいだ。
歩みを進める。
見晴らしのいい稜線で、ドローンを上げてみた。
実際には表銀座でもいろんなカットが撮りたかったのだが、この日は風が強く、雲が多かったので無理はせず、試験飛行のみにした。
いちおう、あるであろう槍をバックに。
ここ国有林北アルプスでドローンを飛行させるには「入林届」という書類の提出と捺印された書類の携帯が必要である。この手続自体は難しくない。国有林における鳥獣捕獲と同じカテゴリの届けである。山菜採取には、さらに許可制の申請が必要となるらしい。
飛行も無事終わり、歩み続ける。
このへんで気がついたのだが、臭い。
なんだか、腐敗臭がする。
少し前から気がついていたが、なんとなく条件付ができた。
お花畑のあるところが臭うのだ。
これは何なんだろう。お花を求めて動物が集まるのだろうか。
そんな無駄な思考を繰り返していると、遠くに建物が見えてきた。
遠くに見える系は、いくら進んでも全く着かないのを私達は知っている。
見えただけで、もうすぐ着くとは無関係である。
1時間は覚悟したほうがいい。
そしてぴったり1時間後、ヒュッテ西岳についた。
ここは稜線の先端にあり、展望がとても良い。
上空の風速が強いようで、雲がどんどん流れていく。
遠く槍ヶ岳の方を見ると、一瞬ではあるが、あの矛先が見えた。
やっと見えた。
拝んだ。来てよかった。明日への活力である。
今回の行程
全体図、青色はこれからのコース。