北アルプスにそびえる3180mの山、初登攀は中田又重郎と播隆上人。東西南北に尾根をかかえ、それぞれ異なった様相の登山道から槍ヶ岳に向かって進んで行ける。
この象徴的な姿は北アルプスの様々なとこから見ることができ、登山者のあこがれである。
これほど愛されている山はもしかしたら富士山以上かもしれない。
前回
その山が今目の前にある。見えないが。
とにかく、山頂にむかう。
数組の先行者がいる。それにしたがい、上へ上へあがっていく。
雨で濡れている。滑らないように気をつけながら上がる。
丁寧に丸印が描いてあるので間違えることはないが、浮石に注意して登っていく。急登なのだが、しっかりと足場もあり、ホールドもちょうどいい位置にある。とても整備されている。
鎖場があるが、これは降りるとき用だろう。登りは苦労なく誰でも登れるコースだ。
ただし、下を向けばいつの間にか断崖絶壁である。気を引き締めて一歩一歩確実に上がっていく。
やがて長い梯子にたどり着く。
この大梯子は、長くとも、だれも怖くはないだろう。ここに来た人は、それ相応の苦労をしてここまで来ているのだ。
相方が先に登頂した。
続いて私も登っていく。
おお、今回の登山、これ以上登らなくてよいエリア、槍ヶ岳頂上に着いた。
展望は全く無いので、実感はまったくない。
とりあえず記念写真を撮る。
実は、明日も天気が良ければ登る予定なので、予行演習として登った。
初登頂が予行演習とは、意味がわからないが、まあ、そういうことである。
天気が変わるのも怖いので、そそくさと降りる。
やはり、下りの方が危険だ。
ユックリユックリと下りていく。
本当にあっという間に下についた。
これで明日も大丈夫だ。
夕ご飯の時間まで、時間を潰す。とはいっても、山荘は、ほぼ満員の状態なので、どこに行っても人がいて、くつろげる場所はあまりない。
どうにか、謎の一角を見つけたので、そこで乾杯する。
うまい。
おつまみは余った行動食と相場は決まっている。
そして晩御飯。
自炊しなくて良いごはんは、やはり最高である。
栄養もしっかり考えられている。と思う。
ごはんももりもりおかわりする。
ああ幸せ。
明日の準備を整え、就寝する。
夜、写真を撮りたかったので、その準備をして寝た。
久しぶりのきちんとした寝床は、狭いながらもぐっすり寝れた。
8/13
3時
目を覚まして窓から外を見る。
どうやら晴れている。
カメラを持っていざ、外へ。
寒い。
寒いというのは、なんとなく心地よい。
山荘から出て見晴らしの良いところに登る。
ヘッドライトが足元を照らす。
ヘッドライトは、たいてい目の位置に近いので、実は視界が明るく見える半面、地面の起伏が影になって現れないので、少し分かりづらい。
わかりやすく表現すると、片目で歩いている感じに近い。気をつけよう。
星が出ている。
今登り始めた登山者のヘッドライトの明かりも見える。
今日はご来光が見れるだろう。
相方がまだ寝ているので、今日は、後でゆっくり登ろう。
夜景から、朝焼けに変わっていく。地平線がぼんやりと紫色に変わっていく。
やがて槍ヶ岳の向こうからオレンジに変わっていく。
山頂から「バンサーイ、バンサーイ」と叫ぶ人々の声がする。
太陽がでる。
この一連の時間でカメラの露出は大きく変わる。
どんどん感度を下げていかないと、いつの間にかISO3600でシャッタースピード250とか、アホンダラな設定になりかねない。
というわけで、きれいな写真が撮れた。
朝日が出そうなので、相方を起こしに行った。
いなかった。
スマホを見ると、どうやら外に出ているようだ。
入れ違いだ。
外に出た。いた。
朝焼けがさらに回り込み、山荘にまぶしいオレンジを浴びせている。
ほとんどの人が外に出て、朝の空気を吸っている。
その半分は、槍ヶ岳に登ろうとしている。
本日の行程は、予定では、徳沢まで下りてテントを張る予定だったが、その予定の敢行のためには、今、山頂にいないと間に合わない。
とても、そんなにいそいでられなかったし、次の日はかなり余裕があるので、徳沢まで下りなくても良い、その手前の槍沢のババ平のテント場にテントを張ろうということになった。
かくして私達は、のんびり槍ヶ岳を楽しめるのであった。
私にはもう一つ、予定があった。
晴れていて、風がなければ、安全な場所でドローンを飛ばすことである。
どうやら、今日は大丈夫そうだ。
朝ごはんを食べ終え、その準備に取り掛かる。
まだ「朝」という空気である。
朝とか、夕方とか、がドローンの撮影は雰囲気が出やすい。
早速、めぼしい場所を見つけ、ドローンを上げる。
大体一回目のフライトは、様子見である。
地上から見るのと、上空から見るのでは、やや距離感が違う。
一応RECはしているが、撮影用のフライトではなく、偵察飛行である。上空高く上げ、尾根沿いに槍ヶ岳に向かう。有視界のみの飛行であるので、麓から山を回り込むことはできない。何となくここから撮れる雰囲気を掴む。
一旦おろしてバッテリーを詰め替え、何度かフライトさせた。
もう十分かな、という感じでは、実は意外と撮れていない。でも、バッテリーの個数も限られているので、無理はしない。
山荘のデッキに戻る。
槍ヶ岳に続く行列ができている。
おおおお、伸びている。
さっきより伸びている。
仕方なく、私達も、そろそろその行列に並んだ。
だがしかし、晴れている。
今日は晴れているのだ。
青空に包まれて、周りの山々も見渡せる。
今日、槍ヶ岳に向かってきている人はさぞかし気持ちいいであろう。
一桁違いで、宝くじを逃した気分である。
もちろん、そんなおしい、宝くじの経験はないが。
続く