次第に見通しが良くなっていく。岳沢という場所を登っているのだが、実際の沢は大きな石がごろごろ転がっていて歩けないので、その沢沿い雨の登山道ができている。標高が上がるに連れて沢に近づき、所々木々のない場所から穂高の山脈が見えてくる。
前回
振り返って見える上高地の建物も見るごとに小さくなっていく。なかなか、よい。上りがいがある。
しばらく進むと、とうとう岳沢小屋が見えてきた。
沢を横断し、対岸に進む。岳沢小屋までもうすぐだ。
茶色いきれいな建物についた。岳沢小屋だ。
こじんまりしていて、テラスがあり、数人が休憩している。
きれいなのは、10年ほど前だろうか、雪崩で建物が流れてしまったらしく、再建したためだろう。
ここで、朝食、トイレ、水くみを済ませる。
小屋には店番の人がいて、さらに外にはアルミ缶を大きな袋に入れてまとめている人がいた。ここでいつも疑問だったことを聞いてみた。
「すみません、どうして、小屋の人たちはアルミ缶を潰さずにそのまま大きな袋にいれてまとめるんですか?」
と小屋の人はこう言った。
「そうなんですよね、このゴミはヘリコプターで運ぶんですが、私達も潰したいんですけど、そのほうがたくさん袋に入るし。でも、潰さないでくれって言われてるんです。」
きっと、ヘリや重量や、燃料コストや、袋の大きさ料金など、色々な理由がザワワーと見えた。
登山は100円玉が多く必要だ。トイレ、水にそれぞれお金を払う。おつりや、管理している人が常にそこに存在するわけではないので、きっかり払わないといけないので、100円玉ポーチがあると便利だ。
にしても、100円玉硬貨は、もう少し軽くならないのかね。1000円分も持つと、ずっしり重い。紙幣とはよくできた一品である。あんな軽くて薄っぺらの紙なのに、山頂では美味しいカレーやラーメンと交換できるのだから、すごい信頼度だ。そもそも硬貨はその素材自体に等価の勝ちがあり、それを金額としていた。金貨や銀貨である。それでは流通に難があるし、そもそも貴重な物質なので硬貨を広く発行することはできない。そういうわけで、国が価値を保証した紙幣ができたのである。多分。ちなみに1円玉は、材料費が2円ほどかかるのは有名な話である。嘘か真か。だから硬貨は加工、変形すると罪になるのである。決して潰して塊にして売ってはいけない。
そんなことは、全く考えす、来た道を振り返り、そしてこれから進む山を見上げる。
そびえ立つ前穂高岳そしてそこを弓状に伸びた稜線、名を「吊尾根」と呼ぶが、そこを通って奥穂高岳、ここに向かう。
時刻は7時半、高原地図の標準タイムと比べると、1時間速いペースでここに来ている。特に急いできたわけでもないので、サンプルのタイムテーブルがゆっくりなのだろう。
ここからは、遅い人も早い人も、遅い。そんな道が待っている。そんな気がする。
装備を確認し、今一度靴紐を締め直し、出発する。
岳沢小屋、ありがとう、また帰りに来ます。
小屋を出ると、チラホラとテントがあった。ここから出発する人もいるのだろう、ここに昨日帰ってきた人もいるのだろう。
ここ岳沢小屋を起点にするルートは、重太郎新道だけではなく、いっきに西奥ルートのど真ん中に出る天狗沢ルート、冬季は奥明神沢を通るルートと、様々ある。
その中で、一番安全なのが重太郎新道なのだから、他のバリエーションルートのレベルの高さたるや、、、だ。
序盤はお花畑に囲まれながら愉快な登山道から始まる。
例のすこし臭う匂いがする。
そしてお花畑をすぎると一気に急登が差し掛かる。
九折の道は、道というより、岩場の上りであり、標高がまだ低いゆえに土もミックスされており、この日はまだ良かったが、雨の日とかの下りは、滑って滑って大変だろう。
そうした道が延々と続く。トレッキングポールを置いてきてよかった。使い所などない。たまに手を使って登る場所もある。
経験した中で例えると、御在所岳の本谷の岩場に伊吹山の8合目あたりの斜度をミックスさせ、それが延々とつづく感じ。
とはいえ、厳しすぎる場所には、きちんと梯子や鎖があるので、おちついて登れば誰でも登れる。そんな気もした。降りるのはどうだろうか。
ここに来て気がついたのだが、どうも岩が斜めに落ちて重ねっていてホールドがしにくい箇所がある。山の成り立ちでこうなったのであろう。
少しだけ傾斜がない場所についた。見晴らしの良い場所だ。カモシカの立場というらしい。
そこで、日傘をさして景色を眺めている人がいた。確かに日差しはきつく、少し暑い。
お声をかけ、写真を撮らせていただいた。母親ぐらいの御婦人だ。健康そうだ。
そして、更にきつくなる登山道を迎え、気を引き締めた。
浮き石も多く、大きな石でも油断できない。
一歩一歩ゆっくりあがっていく。
こういったとき、晴れていれば、振り返り、先程よりも少しでも標高があがって見えると、それなりの達成感がある。晴れていてよかった。
岩場、は延々と続く。これはほんとに厳しい登山道だ。ショートカットとはいえ、けっこうカロリーを消費する。水もたくさん減っていく。
登るに連れて、涼しくなっていくのが救いだ。これが、下りの場合、体力は使わないのだが、暑くなる、あれは萎える。
私は小屋泊なのだが、登山者の中には当然だがテント泊の装備の人たちもいる。素晴らしい。私も次はそうしてみようか、どうしようか。
振り返る。先程の傘の奥方が、傘をさしたまま登っている。
暑いんだな、そう思った。
二度見した。
おかしい、あの岩場の連続を傘をさしたままあの御婦人は登っている、只者ではない。
そして、見るからにペースが早い。魔女のようだ。きっとあの傘で少し浮いているにちがいない。
20分もすると、御婦人が追いついてきた。驚愕のスピードだ。
たまらず声をかけた。
私「こんにちは、暑いですね。さっきはありがとうございます。」
婦「いい天気ですね〜」
私「ところで、ずっと傘さして、この岩場登ってるんですね、すごいですね。ほんで、めっちゃ速いっす。」
婦「いえいえ、実は2ヶ月寝たきりだったの、それで久々の山登り、少しきついですね。」
私「。。。。。。。マジっすか、、、、じゃあ昔はもっとエグかったようですね、、、」
婦「ええ、でも、昔ですよ。」
私「そうですか、ではでは、お先どうぞ、足を止めてしまい申し訳ございませんでした。」
婦「いえいえ、ほんとに今日は気持ちがいいですね、では」
と、過ぎ去っていった。何たる軽やかさ。。。
実は、この健脚傘の御婦人とは、今後も各箇所で会うことになることを、このときの私は、まだ知る由もなかったのである。
つづく