目の前には阿弥陀岳がそびえている。当初の予定ではこの阿弥陀岳の手前の中岳までならば行けるかもしれないと思っていたのだが、どうしても時間的に間に合わなさそうなので、諦めた。初めての山でも、事前に地図を見ながら予定時間を計算しておくと、当日の実際のチェックポイントまでの時間と照らし合わせて掛け算すれば全体の当日のトータルの時刻、下山時刻まで再計算できる。だが、地図によく書かれているタイムは夏道での参考時間なので雪山の場合はあまり参考にならない。
前回
冬は、時間がかかる事もあるが、直登できる箇所もあるので、意外と夏道よりも速かったりする事もある。速ければ無理せず急がずに、チェックポイントにて当初の時刻まで休憩すれば良い。ただし、天気が不安定で、今ここでホワイトアウトした場合危険度が増す、という時は問答無用で体に鞭打ってでもその場を離れた方がいい、と思う。そんな経験はまだ無いが。
あと、日照時間、夏に比べ冬は短い。夏は13時間程度、それに比べて、冬は明るい時間は9時間程度、夏の2/3しか冬は動ける時間がない。そのため、スタートは日の出前から始められる環境を用意しておく必要がある。というわけで今回もステキな食堂での朝食を諦めてのスタートとなった。あとで時間が余ったらそれはそれで良いのだ。「早起きは三文の得」。今も私は仕事現場前の喫茶店で早く来すぎた時間を潰しにこのブログを書いている。こういうのを「メタ」と言うのだろうか?いやフィクションの小説ではないから、メタではないのか。わからない。
阿弥陀岳にそっと手を合わせる。これも今回の大切な目的の一つだった。今、無事そうする事が無事できた事に感謝しつつ、しばし目を瞑る。
ここ赤岳は、ガイドさんらしき人とペア、もしくは複数で登山している人が結構多い。とても多い。こういう人達から学ぶことは自分の経験から得られるものよりも、果てしなく多いはずなので一度、お願いしたい。
さて、下山である。ここからは来た道とは違い、文三郎尾根を下りて行者小屋までもどる。
稜線をてくてく歩かない分、急な下りになる。
スタートいきなり崖っぷちで相方がビビる。
私が二股になっている険しい方を選んだばかりに。何かしら大きな声で叫んでいる。それにビビる。しばらく不機嫌と岩場が続く。しばらく降りるとややマイルドな下りになる。赤岳に行くために、ここを行きで使う人、目の前にチラホラ登っている人がいるが、なかなかのM気質な人だろう。
そうこうしているうち見晴らしのいい広い場所についた。振り返ると、やはり急だった事がわかる。向かいには阿弥陀岳の山容が綺麗に見えている。ここでしばし休憩。そういえば、持ってこようと思って何度も忘れていた日本酒を今回は持ってきていた事を今の今まで忘れていた。それは写真を撮る目的で持ってきた。ちょうどいいのでここで撮影する。
本日は本当に天気がいい。風がまったくなく、快晴。こんな日は珍しいのだろう。初めて来てこの天気は、次はこれと同じか、これよりは悪い天気だ。確率でいうと圧倒的に後者になる可能性が高い。
365日ある一年間で週末の土日は50回、そのうち冬は12回となる。この12回が晴れる確率は恐ろしく低いだろう。しかも前回の木曽駒ケ岳の例もある、丸々一日晴れということは殆ど無かろう。だが冬山といえば、雪。天気がいい日ばかり続くと、山に雪は積もらない。難しいところだ。下山中、太陽が稜線を越えてきて、ぱっと明るくなってきた。雪面は日にあたっている部分は眩しく白く輝き、影は薄い青に染まっている。モネのかささぎやラヴァクールの絵のようだ。
斜度は次第に穏やかになり、樹林帯に入る。気温は相変わらず高く、まるで春山。 行者小屋についた。多くの登山者がいて、休憩している。私達も休憩と装備のやりかえを行う。ハーネスやスリングをしまい、レイヤリングを薄くする。時間も充分にある。
身軽になったぶん、背中の荷物が少し重くなる。ジレンマだ。荷物は背中に背負うよりも、体にまとったほうが、体の芯に近いので軽く感じる。バケツをまっすぐ下に手を伸ばして持つのと、90度曲げて水平に持つのでは重さが違ってくるのと同じだ。
行者小屋から樹林帯を通り、降りていく。やがて見慣れたステキ山荘、赤岳鉱泉につく。立ち寄る用事もないので、トイレだけすませて素通りする。時刻は12時、バスは16時くらいのに乗る予定、ここから3時間なので充分間に合う。
私達は、アイゼンは付けたまま、バス停に向けて登山道を降りた。
続く